B級映画は君に語りかける(0)

人は映画を見て、まれにその歴史を考えたりする。『カサブランカ』を見た後に『ショーシャンクの空に』を見てどちらが心に響くか考える。『ニューシネマパラダイス』を見た後に『勝手にしやがれ』を借りてトルナトーレは泣けるがゴダールはうんぬん、とひとりごちる。名作の財産登録が済んだ、素晴らしい現代消費社会。君はそこに満足しないではないが、息苦しさを感じることもある。まれに、ではない頻度で。

ゴダールは「複数の映画史」ということを言った。「映画史」が「複数の映画史」に変わる瞬間、今まで目を向けられていなかった、そこに美があると信じられてすらいなかった、様々なシーンの美が湧き上がってくる。「名作」は社会が決めるものだが、「B級映画の名作」は君が決めるものだ。「B級」は予算規模やアングラ性の多少によって決まるものでもなければまして蔑称ではない。まぎれもなく消費社会の産物でありながら、そこに疲れきった君に一時なりとも幻想の癒しを与えてくれる、社会の全体にでなく君にささやきかけてくれる映画こそが「B級」なのだ。B級映画は特有の、映画にしか実現できない美をもっている、たとえば
カリフォルニアドールズ』のドールズ回転エビ反り固め!『悪魔のいけにえ』の朝陽に舞うレザーフェイス!『トレマーズ』の棒高跳びで移動するケヴィンベーコン!『バス男』の踊り出すナポレオンダイナマイト!『チキンオブザデッド』のトイレで生まれ変わる巨漢!『エクゼクティブデシジョン』でふっ飛んでいくセガール!『アタックオブザキラートマト』の会話する犬!『サバイバルオブザデッド』のゾンビ化する馬!『エイリアン4』の賞金稼ぎたち!『エクソシスト』のリーガンに毛布をかけるメリン神父!『ロッキーホラーショー』の網タイツで踊る教授!『インビジブル』の輪郭しか見えないケヴィンベーコン!『ファントムオブパラダイス』の疾走するファントム!そして『ザ・グリード』の、不滅の「お次は何だ?」…

以下の文章は、彼らのために綴られる。